パリ「1強」が際立つファッション業界で、2018年春夏の新作を発表するミラノ・メンズコレクション(16~19日)は、苦境を如実に表していた。ショーの開催期間が5日から4日に減り、会場では「ミラノ・メンズは2年後にはなくなる」との声も。ミラノが岐路に立たされている。 グッチ、ボッテガ・ヴェネタ、エトロ……。これまでメンズのショーを催してきた有力ブランドが、次々と9月のレディースコレクションに「合同化」を進めている。服の男女差を取り去るジェンダーレス化や、時に1億円かかるショーの経費削減につながるからだ。現地紙のファッション評を担当するアンジェロ・フラッカヴェントさんは「コレクションについて何を書けば、と戸惑うほど。もはやミラノはトレンドを作れていない」と嘆く。 それでも、一つの答えを提示したのがエルメネジルド・ゼニア=[1]だった。竹・浮世絵・鶴…… 会場は伝統あるミラノ大の中庭。その地面を朱に染めあげ、和太鼓を打ち鳴らす。服も多彩な色を取り入れ、着物のあわせを連想させるジャケットや竹の柄など、「和」の要素を感じさせた。クラシックを自由に解釈し、常に更新するのがミラノの面白さと訴えるかのようだった。デザイナーのアレッサンドロ・サルトリは「お客様の個性やスタイルもさりげなく加えられる、将来を見据えたメンズ服」をめざしたと話す。 対してキッチュな日本文化を逆手に取り、見事に若者文化として表現したのがドルチェ&ガッバーナ=[2]。浮世絵の歌舞伎役者を大胆に切り取り、モチーフにした。形だけを借りるのではなく、いかに「和」をブランドらしさと融合させるか。いずれも、こだわりが感じられた。日本への興味は、エンポリオ・アルマーニ=[3]でも示された。「古き日本との対話」とスクリーンに映し、鶴を描いた胴着風のジャケットや、はかまのようなパンツが登場。写真を投稿するインスタグラムなどのSNS映えや、若い世代の感覚を取り入れた。ジョルジオ・アルマーニが本格派を継続しているのに対し、実験の場になっているようだ。 SNS映えの意識は「色」やブランドのロゴに工夫が感じられた。プラダ=[4]は宇宙服を連想するオーバーオールやシャツを発表。「赤」がインパクトを与えた。ヴェルサーチ=[5]も、伝統の柄に「赤」や「黄」を差し込み、モダンさが増した。 近年ポップな傾向のあったフェンディ=[6]は、古くささすらある定番の「F」の柄をあえて強調。新鮮なクラシックスタイルが際だった。 ただ、これらはすでに一定の顧客を持つブランドだ。ナポリのセレクトショップを営むフィリッポ・カッチャプオティさんは「パリと違い、今のミラノは国際的バイヤーをひき付けるのが難しい」と話す。パリには若手デザイナーが次々と進出。サカイなど、国際的に売れる気鋭のブランドが集まる。「ミラノにはそれがない。伝統だけでなく、世代交代が必要だと思う」急きょサルバム 今回、主催者側に急きょ呼ばれたのが藤田哲平(32)の手がけるサルバム=[7]だった。「テロとか重苦しさがあるので、せめて羽織る服だけは軽くいてほしい」と、色も素材も軽さを追求。ジャージーのシアサッカーなど、柔らかで自然な風合いを描いた。 世界から注目を浴びる創造性を持った若手ブランドを、いかに育てるか。ミラノの課題は、デザイナーもバイヤーの予算も集まる「1強」パリ以外の、東京などのコレクションにも通じている。
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